哲学、芸術、デザイン事務所創業、そして次なる挑戦 APATERO代表/美術作家・長田航インタビュー(3/3)

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大阪に居を構え「カゲキをステキにデザインする」という理念のもと制作を行う新興デザイン事務所・APATERO
その代表であり、自身作家活動を行われている長田航にインタビューを行った。
後編となる本稿では、デザイン業としての厳しい現状と今後の展望を聞いた。

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実案件について

-実際にどういった仕事が多いのでしょうか。また、事務所としての代表作はありますか?

郡:個人的に一番労力がかかってるのは鞄ですね。

長:全然デザイン事務所っぽくない回答になって申し訳ないんですけど。オーダーで鞄とかの革製品を作ったりしてる。あと名刺作ることはけっこうありましたね。

-名刺はどういったお客さんがいるのでしょうか。

長:個人が多いですね。名刺ってやっぱり顔なんで、例えば、公的な機関に営業行くときは、斬新な名刺を持ってるところは敬遠されがちらしいんです。カチッとした、白い四角い紙に明朝体でガシッと文字書いてるだけみたいなのが喜ばれる。逆に、本業とは別に副業で華やかな職業もされているような方も、求められるイメージって違うから名刺が一種類やったら対応しきれない。そういう、シーンに合わせて名刺持ってる人ってけっこう多いですね。ある程度細分化されたイメージを表現する方が僕らとしてもやりやすい。作り甲斐もある。面白くない名刺にお金払ってる人ってすごく多い。意図も無いのに、文字ばっかりつらつらと書いてあるだけとかだと、捨てられるための名刺になっちゃいますからね。

業務停止宣言

-今はどれぐらいの忙しさなんですか?

長:実は、今は新しい仕事はしばらくとらんっていう決断、一時的に新規業務の停止宣言をしているんです。だから、ある程度は凪いでいますね。それまではかなりのハイペースで、営業行ってましたし仕事もとってたんですけど、なんで業務停止したかというと、なんていうかな。デザインじゃないですか。で、僕らがこれが絶対いいと思っていても、お客さんがそれを許容しなければ完全に却下されるんですよね。

-クライアントワークですからね。

長:結果、要望ばかり聞いてたら、つまらない作品ができあがってしまう。それを僕らの名義で出すとなると、すごく僭越ですけど、やっぱり嫌だった。それで、何でこんなことになるんやろうって思ったときに、答えとして出たのが、僕ら自身の実績が無さ過ぎるからなんですね。流行ってるデザインとか、これがいいとされてるものって、大多数の人間がホンマにそのデザイン自体をいいと思ってるんじゃなくて、それを作った人間が名前の売れてる人やからとか、偉い人がやってはるからとか、偉い人がいいと言ってはるからいいもんなんやって判断してる、結局それでまわってる、というのをものすごく感じた。だから、僕ら自身である種の流行をつくってしまわないといけないんですね。僕らがめっちゃかっこいいデザインやな、いいのできたなと思ってお客さんに出しても、僕らのネームバリューが無かったら、ただのズブのド素人が作ったわけの分からんものっていうふうにしか映らない。それに、逃げられることがすごく多かったんですよね。提案書を作って、説明もして料金表も出して、これでいきましょうっていう話になったのに、じゃあ入金お願いしますって言うと連絡が途絶えてしまう。それが4回くらい続いたんです。で、どうしたことやろって考えて、僕ら自身のネームバリューっていうものを高めていかないとこのままだなって。社会の現実、厳しさと向き合えたので、ボコボコにされて良かったんです逆に。でも空ばっかり見上げてましたよ、あの時期は(笑)。クライアントワークって、あの人らがいいって言ってはるからいいんやろ、って多少は思ってもらえるようにならないと、全然満足な仕事をできないんだなって当たり前の事を感じましたね。それで今は業務停止してます。注文が入ったらやりますけど、僕から営業に行って、僕が仕事とって頭下げに行くことを、しばらくせえへんっていう、感じですね。

次の打つ手

-では最後の質問です。次の打つ手としては、何を考えられているのでしょうか。

長:次の打つ手は、僕自身は、展示会を考えてますね。自分らが作りたいものをとりあえずクライアント無しで、言うなれば芸術的にものを作って、で、何かしらの形で、発表したりとかしながら、ちょっとずつ実績を積み重ねていく。せっかく、仕事から解放されてるんで、自分らが作っててたのしいものを思いっきり作りたいですね。

あと、これは割と個人的な話になるんですけど、途中に言うてた僕の制作の根幹の話で、言葉で何でも片付けようとする人であったりだとか、そういった社会の風潮をムードを少しでも変えなきゃという話をしましたよね。最初は、自国の城の中から石を投げてるようなズルい人らに、僕が前衛に立ちながら「そっから出てきて一緒に闘おうぜ」って呼びかけるつもりだったんです。けど、APATEROとして社会に出てみてある種の諦観みたいなものが身に付いてきて、今はわりと気持ちが変わっています。もう、逆に出て来ないんなら彼らを城ごと燃やしてやろうという気持ちの方が強いです。

-(笑)殺しちゃうんですね。

長:そうです。物理的には危害を加えないけど、物理意外の方法では、あらゆる方法で殺戮を侵そうという気持ちがすごく強い。作品としてそういったことをどんどんしていって。これからの目標としては、前科三犯くらいはしたいという気持ちがありますね。

郡:人を傷つけないテロみたいな。

長:そうそう。APATEROの標語として「平和的なテロ活動をする」というのを最初から掲げているんですけど、社会に出てみてから、その気持ちがより強くなった気がします。

-長い時間ありがとうございました!

(インタビュアー:じょいとも 7月16日 APATERO事務所内バスルームにて)

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長田航 | Kou Nagata

1991年生まれ。デザイン事務所APATERO代表。美術作家。
愛媛大学理学部を中退し、郡哲平(現APATERO専務)と共にAPATEROを創業。
デザイン業の他、月例開催の展示会「マイツキ展」をはじめとして様々な企画を展開する。

APATERO Web Site: http://apatero.com

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